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高松高等裁判所 昭和44年(ラ)34号 決定

抗告人 山上仁義郎

右代理人弁護士 木村鉱

主文

原決定を取消し本件を徳島地方裁判所へ差戻す。

理由

本件抗告の理由および抗告の趣旨は別紙のとおりである。

これに対し、当裁判所は次のとおり判断する。

原決定は、不動産の競売に関しては執行官は競売裁判所を補助するものにすぎないのに抗告人(原審異議申立人)が執行官を独立の執行機関であるものの如くに解して執行官の行為につき直接民事訴訟法第五四四条による異議を申立てたのは不適法であるとし、抗告人の異議申立を却下したものである。なるほど、不動産に対する任意競売手続は不動産所在地の地方裁判所の管轄するところで、執行官はただ補助的に職務を行なうにすぎないから、執行官の措置に不当の点があっても競売裁判所自身の処分に不当ありとして異議を申立てるのが正当であるといわなければならない。しかしながら、本件異議申立書を精読すれば、要するに抗告人は、徳島地方裁判所昭和四二年(ケ)第七六号不動産競売事件につき昭和四三年九月一三日競売期日が実施せられ抗告人が適法に最高価競買人となったのにかかわらず爾後の手続が履践されないとしてこの点の是正を求める趣旨で裁判所に不服を申立てたものであって、実質は競売裁判所の処分に対する不服申立と解釈できないでもない。原審がこの点につき考慮を払わず、抗告人に釈明の機会をも与えず、主張自体失当としてたやすく異議申立を却下したのは相当ではないといわなければならない。

さらに原審は、かりに抗告人(原審異議申立人)の主張するような事実があったとしても昭和四三年九月一三日の競売期日は同月一二日の決定を以て取消されているからその競売実施は期日外のものであって有効とみなすことができない旨判断している。しかしながら、本件の競売事件の記録、抗告人提出の甲第一号証(執行官仙谷昌一作成の昭和四三年九月一三日付競落保証金一五万四、〇〇〇円の領収書)、抗告人および仙谷昌一に対する審尋の結果によれば、昭和四三年九月一三日午前一〇時(場所鳴門簡易裁判所)の競売期日および同年同月一八日の競落期日(場所徳島地方裁判所)は適法に公告せられたが、競売期日の前日である同年同月一二日徳島地方裁判所裁判官は右各期日を取消すこととし、競売事件記録に編綴してある競売及び競落期日の公告書控の欄外に、「本期日は職権をもって取消す。次回期日は追って指定する。昭和四三年九月一二日裁判官」と記載し捺印したこと、そうして右競売事件記録は担当執行官仙谷昌一に送付されたが、同執行官は右の期日取消の記載に気づかずに同月一三日鳴門簡易裁判所に赴き競売を実施し、その結果、抗告人が最高価競買人となり、保証金として金一五万四、〇〇〇円を納付し、当該期日を終局した事実を認めることができ、右認定に反する資料はない。そして、たとえ競売裁判所が競売期日の取消を決定したとしても、裁判所内部での意思決定があったにとどまり当事者その他の利害関係人に対する告知を全く欠如している場合は取消の効力を生ずるに由ないものと解するのが相当であり、本件の競売を期日外のものとみることはできないというべきである。原審のこの点の判断も失当である。

よって原決定を取消し、本件を徳島地方裁判所へ差戻すこととする。

(裁判長裁判官 橘盛行 裁判官 今中道信 藤原弘道)

〈以下省略〉

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